技官としてのオレ

歯科医師として、そして技官として

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まずはオレが技官になった理由から話さなあかんな。

 

俺もな、最初は理想に燃えた歯科医師やったんや。冗談抜きに世界で通用する臨床家を目指していた。朝はもちろん始発から、夜は終電になるまで勉強、練習、臨床の日々や。だから、臨床家の先生の気持ちは分るつもりやで。

 

歯科医師になって初の職場は、保険ぶん回しの医院やった。ホンマにたくさんの患者を診る事が出来た。院長は豪傑で、俺の背中を見て盗めって先生やったから随分好きにやらせてもらったわ。おかげで実戦経験は同期と比較してもかなり多かったんちゃうかな。

もちろんそこで保険の勉強もたっぷりとした。今思えばまだまだ骨組みレベルやったけど、取りこぼしなくお行儀の良い算定は出来てたんちゃうかな。

 

で、ある程度の症例をこなせる様になり患者にも慣れてくると、商業誌を見る余裕も出てきた。それには、自費のチャンピオンケースが所狭しと並んでいる。思わず目を奪われたで。と同時に、オレの次のステージはここやと思った。

 

そして次に、都心部に居を構える自費治療がメインの大型医療法人に移ったんや。

ここでも朝から晩まで勉強、練習、臨床や。一つ違ったのは診療後の症例発表、休日のセミナー、勉強会参加、そしてそこでの発表。

思った以上に厳しかったが、自分が求めていった場所やから充実していた。物理的に時間がなかったけど、合間を縫ってよく悪さしたもんやで。

そんなこんなで最初のうちは良かったんや、最初はな。

 

前の医院と違ったのは一番に衛生士が権力を握っていた事や。院長がスタッフは職種に関わらず平等や、て考えの先生やったからな。そこで変な勘違いしてしもたんやろ。でもな、毎日治療のケチを衛生士が付けてきて無駄に態度がデカい。助手も技工士も同様で、業者も大手か知らんけど上から目線や。

社会人やねんから、最低限の礼儀ってもんがあるやろ。

個別指導のお手伝させてもらってきた医院も、こういうとこ意外と多いで。

まあ患者はしゃあないけどな、意識高い系ばっかりや。やっぱ保険でできる治療をわざわざ自費でするだけあって、ちゃんとした金持ちじゃなければ変な奴ばっかや。でもまあ、かなり人に対しては鍛えられたけどな。

 

そうは言っても、オレがここに来た目的は最高の治療を患者に提供する事や。

地道に技術も研鑽し、おかげでここでもそれなりの治療をこなす事が出来た。

そしてそれを勉強会で発表する。あこがれてきた自費症例や、もちろん充実してたで。

 

ところが疑問に感じ始めたのが、どれだけ技術と心を込めたフルマウス症例も「保険」である以上は吊るし上げ、罵倒の対象にしかならないってところや。

「こんなん治療ちゃう。自費でやらな意味ないやろ。逆に医原性疾患作っとるんちゃうか?いつまで、先生はいつまで成長しないんですか?」

とこんな感じや。

結果、患者のために心込めて治療をしているのか、症例発表のために機械みたいに治療をしているのか分らなくなってきてな。うまく割り切れんかったんやな。

 

長々と書いたけど情けない話、心が折れたんや。

結局は退職してしもたんやけど。

 

そしてようやく落ち着いてきたところに、縁あって技官を目指さないかという誘いがあった。

良いイメージはなかったが、臨床とはかけ離れた何かをしたかったし、「保険」のルールに則った仕事が出来るという今までとは真逆の仕事に、使命みたいなもんを感じたんやな。

 

てなことで、技官採用試験を受けることになったんや。

 

 

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