「じゃあ、続き聞かせてもらってよろしいか。」
<せや、下歯槽神経麻痺の出現頻度やったな。>
「せや、エビデンスを提示して頂いてよろしいか?」
<鼻につく言い方しよって・・・お前みたいなヤツ、一回死んだらエエねん。>
「一回死ぬのは男塾だけでエエんや。早よ教えてもろてよろしいか。」
<・・・これはな、歯と下顎管のX線学的位置関係とオトガイ神経麻痺出現数・頻度としてのエビデンスがある。>
「と、言いますと?」
<まずは歯と下顎管の位置関係からや。①接触なし ②接触 ③重なる の3パターンでみていく。>
・・・インプラントの下顎管損傷とは関係ない気はするが、まあエエか。
「それはパノラマやデンタルの所見だけでの話か?」
<いや、もちろんCTも含めての総合的な話や。2次元だけじゃ正確な位置関係は把握できへんからな。>
野崎のドヤ顔が止まらない。この手の先生は、症例や論文の話をする時にやたらとテンションが上がる。本当に歯科臨床が好きで楽しくてマウントを取りたくて堪らないのだろう。これ程の熱い気持ち、羨ましい事この上なしやで。
「で、肝心の結果は?」
<麻痺出現数(%)やな。①0% ②0% ③2.9% や。合計では、1.2%や。>
「ほとんど起こらない、て事やな。てか重なっても2.9%やねんな。」
<せや。ほぼ心配ないという事や。だから、そないにチビらんとガンガン抜歯したらよろしいわ。>
「マヒらせまくってるヤツに言われても、いまいち説得力がないなぁ。」
<まくってへんわ!だからただの偶発症や!それに抜歯ちゃう、インプラントのドリリングでの偶発症や!>
「そっちの方がタチ悪くないか?CTで位置関係までバッチリ把握してたのに。」
<・・・>
「まあエエやないか、麻痺で済んで。死亡事故よりマシやろ?」
数年前に某医院にて、インプラント治療にて起こった死亡事故の事を思い出した。
舌側の皮質骨を突き破って動脈を損傷した結果、帰宅後に窒息死したというケースだ。
ちなみにオレが勤務していた医院に、その事故が明るみになった後、その医院でインプラントを埋入した後こちらへ引っ越してきた患者が、件のニュースを見て恐くなり来院した事があった。
何となく調子が悪いという事でCT撮影を行ったところ・・・
舌側の皮質骨をフィクスチャーが貫いていた。バイコーチカルか?いや、危なすぎるやろ。
ギリギリセーフといったところか。そりゃ、こんだけ攻めたケースが多ければ、起こるべくして起こった事故と考えられなくもない。
同じ歯科医師として、決して他人事ではないとサブイボが立った事を思い出した。
とりあえず、目の前の患者に「生きているという事はひとまず成功です」、とよく分からん事を言ってリリースしておいた。
難症例に善意と情熱を持って取り組んだ結果、貧乏くじを引く事になった経験が多々あるからな。触らぬ神に祟りなしやで。
「で、ヤク漬けにした後はどうなったんや?」
<ややこしい事言うなや!そっからな・・・>