<お~!キンキンに冷えとるやないか~!!>
忘れた頃に院長が入室してきた。
<なんか俺が昼寝しとる間にオモロい事になっとったらしいやんけ。>
全然オモロないですやん。今日の全メンバー、確実にブラックリスト入りしましたで。
<よっしゃ、とりあえず乾杯しよか!>
また始まった。
しかし部屋が変わって空気まで変わったせいか、全てがリセットされたように感じる。
二次会や三次会に至る道程において陥るこの錯覚のせいで、翌朝に何度地獄を見てきた事か。
しかしそれにしても、A先生の前十字靱帯損傷スタッフとB先生の大量離脱スタッフを除けば、まだみんな律儀に付き合っている。
一部で結束は強まったという事か?
と思いきや、後にこのメンバーのうち90%以上が退職した事を考えると、それこそ一時の錯覚だったのだろう。
<しかし一連の流れ、店長の粗相もエエとこやな。>
まだ言っとるんか。こんな広い部屋にタダで移動したんやから、もうエエやろ。
と思ったの束の間、
<今すぐ店長呼んで!>
と、オレに向かって言ってきた。
完全に油断しとったで。不意打ちを食らった気分や。
しかし、今からまた店長を呼べって?一体全体、何を企んどるんや。
部屋に備え付けてある電話でフロントへ連絡を入れる。延長やドリンクの追加以外の用件で、初めてかけたで。
なんか、テレクラみたいや。
知らんけど。
「あの~、店長にお越し頂けるようお伝え願えますか?」
従業員の訝しげな雰囲気が電話越しに伝わってくる。しかし、難なく店長へ伝えるとの返事を得た。
こんな面倒臭い客にバイトの立場で絡みたくないんやろ。店長へ丸投げや。
知らんけど。
しばらくして店長がカムバックや。なんかさっきより、やつれたように見えん事も無い。
そりゃそうか。一難去ってまた一難、しかもまたヤカラの相手をさせられるんやからな。
<お~、来たか店長!まあまあ、これ!!>
そう言って、ヤカラ達からビールが並々注がれた大ジョッキを手渡された。
<よっしゃ、センターへ移動や!>
そう促され、店長が部屋の真ん中へと移動した。
<よっしゃ、お前らは円になれ!>
こちら側のメンバー全員で、輪を作る。店長を取り囲むように。
<よっしゃ、店長!イッキ飲みイクか!!>
なんか、見てるこっちが恥ずかしくなってきた。
昨今の社会情勢を見ているとよく分かるが、自己啓発を進んで発信する人間は、実際にやっとる事は真逆な事が散見される。
知らんけど。
<おっと、その前に一言!>
と、マイクパフォーマンスを強要し始めた。
・・・大丈夫か?なんか自分の身が心配になってきた。なぜならオレは鉄砲玉だからだ。後始末を丸投げされそうな危機感を覚えた。
そして店長が、マイクを手に取った・・・