ある開業医の話

【院長への道 ep.3 〜開業戦線異常なし】

ここで、この話のもう1人の主人公でもあり、遅い開業派の鉄平について話しておこう。

鉄平はサトシィの大学時代の同級生で、私立の歯科大ではどちらかと言えば少数派の『親が医者·歯医者ではない』学生の1人だった。

横浜出身の鉄平は、最初こそ関西弁が飛び交うキャンパスに戸惑いを覚えたものの、すぐに持ち前の明るさと社交性を発揮し、あっという間にクラスの中に溶け込んだ。

鉄平の父親は、国内最大手の航空会社のパイロットで、関西の私立歯学部に行かせるくらいの余裕はあったが、やはり開業医の両親を持つ同級生に比べると金銭感覚の違いを感じずにはいられなかった。

鉄平はサトシィと同じく二浪ということもあり、なんとなく意気投合し、たまに飲みに行ったりするような間柄であったが、かと言ってめちゃめちゃ仲がいいかというと、そうでもなく、クラスの中で所属するグループが違い親友と言う関係でもなかった。ただ、共に高校時代にバンドをしていたと言うこともあり、一緒にバンドを組んで学祭でライブをしたりもした。

【明るくてクラスの人気者、彼女は学年でも評判の可愛くて巨乳のヤエちゃん】

という間違いなくスクールカースト上位のバラモン鉄平と、

【休み時間は教室の片隅で静かに週間プロレスを愛読】

という、スクールカースト最下層であるシュードラ·サトシィの2人は、大学時代は【友達以上親友未満】と言う、そんな感じの関係だった。

学生時代の鉄平との思い出の中で、鉄平の性格や気性がよくわかるエピソードの一つにこういった話がある。

その日は、同級生数人で大学終わりに急遽飲みに行こうという話になった。当時流行っていた屋台村みたいな所でしこたま飲んだ後、ふと気がつくと終電がなくなっていた。自分は当時自宅から通学していたため、帰宅できなくなり、さりとてタクシーに乗って帰れるほどの金もなかったので、その日は一緒に飲みにきていなかった1番仲の良いO君の下宿先まで1時間ほど歩いて行って泊めてもらうかな、と思案していると、鉄平が、

『サトシィこの後どうするんだよ?』

と聞いてきてくれた。Oの下宿まで行って泊めてもらうつもりだと伝えると、『それなら俺んち来いよ!狭いけど😉』と言ってくれた。当時はそこまで仲良くなかったけど、渡りに船とお言葉に甘えさせてもらうことにした。

京阪沿線沿いのH市に下宿していた鉄平はレオパレスマンションに住んでいた。部屋はフローリングのワンルームでロフトがついており、男の一人暮らしのわりに綺麗に片付けられていた。冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、一つを私に放ってよこすと『2次会しよーぜ』とニコッと笑った。

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