皆の視線が一斉にこちらに注がれる。
女性スタッフからは、刺すような冷たいオーラを感じる。
気のせいか?いや、こういう時の嫌な予感は得てして正解するもんや。良い予感はあんま当たらんクセにな。
知らんけど。
二日酔いも相まって機嫌の悪そうな院長が、オレを手招きして呼んでいる。
どうやらただ事ではない雰囲気が感じ取れる。この数時間の間にどんなドラマが生まれたんや?
意を決して院長室に入る。入るや否や、カギを閉めるよう指示を受ける。金田一少年なら、密室トリックの出来上がりや。
<須藤、昨日はあれからどないなったんや?>
「どないもこないもありません、院長の指示通りあの娘をホテルに送り届けました。」
<何があったんや?>
「ホテルに送ってきっちり寝てもらいました。それだけです。」
<ホンマに、何も無かったんか?>
「くどいですね。だから何も無かった、て言ってるやないですか。」
<それならエエんやけどな・・・>
「逆に、何があったんですか?」
<朝一番で、C先生から連絡があってな・・・>
「何か悪い知らせですか?」
<お前にとっては、悪い話かもしれん。>
介抱を押し付けられてちゃんと送り届けて、まだ何か悪い事があるんか。
「それは一体、どういった話ですか?」
<朝一番でな、あの娘の親から電話があったらしいんや。>
「親から?」
<せや、昨日は娘が帰って来なかった。何度も電話しても出なかった。運動会が終わってから打ち上げに行くって連絡があったから、ハメ外して同僚の家にでも泊まりに行ってるもんやと思ってたら・・・>
どうやら悪い予感は的中したようだ。
「一人残されて素泊まりか、て言ってきたんですか?」
<それだけならまだエエんや。>
「何かのオマケ付きですか?」
<記憶が飛ぶくらいまで呑まされて、挙句にホテルに連れていかれてそのまま放置ですか?てな。>
「そんなん、知りませんやん。C先生の責任でしょ。」
至極当然の返答をする。何も間違った事は言っていない。
<それがな・・・>
「どうされたんですか?」
<須藤先生が送ってくれた、て言ってるらしいんや。>
記憶が飛んだ、て言ってたやないか。去り際に確認されたとはいえ、そんな都合のエエ記憶喪失は止めてもらえへんか。
「別にそれはエエんちゃいますか?大事な娘さんを丁重にお送りしておいて、文句言われる筋合いはありませんよ?」
<分かっとる。しかし、ホンマに何も無かったんか?てあちらのご両親がキレとるらしいんや。ホンマに何も無かったんか?>
「だから何も無いですって。無い事をある事にするって、昭和の取調べ室ですか?」
<そんなんちゃうんや、とにかくな・・・>
いよいよ、最後の後始末や。