ある開業医の話

新米院長奮闘記 Dental Tendency 金パラ色の波紋疾走〜その4

『デュラシール(仮封材)の液の量が多すぎる。1ヶ月も経つというのになんでこんな事もわからないんだ』

と、お小言を言った私に対して、みるみる顔を曇らせた歯科助手のHさんはこう言った。

『先生、もう1ヶ月って言いますけど、私からしたらまだ1ヶ月ですよ!やった事もない仕事を初めてやるんですからわからなくて当たり前でしょ!(怒)』

と、顔を真っ赤にして反抗してきたのだ。

私は呆気に取られた。

てっきり、『すいません、次から気をつけます、、、』と反省の弁を述べると思ったのに、反省どころか反抗してきたのである。

開業以前、自分が勤務医だった時は、その当時の院長が非常に激しい性格だったため、どちらかというと自分は温和な仲裁役というか、院内のバランサー的な立ち位置にいた。

だから、自分がスタッフに対して注意するという事はあまりなく、院長にバチギレされているスタッフを慰めるという役回りだった。

当時の勤務先の院長は、普段は優しいのだが怒るとめちゃくちゃ怖くて、目が殺人鬼の目をしている時があった(笑)

だから院長に対して反抗するとか、口答えするスタッフというのは皆無だった。

それを見てきていたので、スタッフから歯向かってこられるという発想が自分の中にはなかった。

鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしている私に、Hさんは追い打ちをかけるようにこう言い放った。

『なんかイライラしてるんか知りませんけど、もっと優しく言って下さいよ!先生たちはそりゃ何年も勉強してこの仕事の事よくわかってるでしょうけど、こっちは素人なんですから!』

ガビーン!

(素人って、、、お金もらって働いている以上はプロちゃうんかよ!)

という言葉が喉まで出かかったが、グッと堪えた。

『、、、確かにそうやな、悪かった。これから気をつけます』

と言い、クルリと彼女に背を向けた。

僕もまだ30歳と若かったが、Hさんも若かった。

Hさんは近所に住む20代の女性で、明るくハキハキとした性格。面接した時の印象もそして、とても良かった。歌が好きで、将来はボーカリストになりたいという夢を持っていた。そういう世界で勝負しようというくらいの気概の持ち主だったので、当然気も強く、思った事をハッキリという性格だった。

その日は、2人とも会話をせず、微妙な空気のまま診療が終わった。

そして、その日の深夜、彼女から一通のメールが届いた。

〜続く

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