Column


訪問歯科で指導対象患者を選ぶ際は◯曜日と決めて、その日に指導対象患者を集中させ、時間被りはないか、移動時間にムリがないか、など徹底的に調べ上げる。
後ろで他の事務官が一生懸命、訪問時間に無理がないかなどと調べているが残念ながら今回は鉄壁のパズルが出来上がっている。
ここで指導できるとしたら、くだらない「カルテ記載が不十分」くらいか。
「毎回、毎回、キッチリ20分となっておりますがあまりにも事務的な感じがします。ぶっちゃけ実際はどうですか」
事務官が院長に向けて質問する。
これも想定内の質問だ。
「わざとそうしてるんですわ。ドクターにタイマーを持たせてキッチリ20分になるように診療させてる次第です」
「では、毎回毎回、朝の10時ピッタリに訪問されていますが、少しは前後することもあるでしょう」
「いえ、毎回10時前くらいに到着して、10時キッカシになってから診療するように徹底しとるんですわ」
事務官の顔が歪む。
残念ながら全て想定内の質問である。
ここから代わって技官にバトンタッチされる。
「毎週毎週、必ず月に4回行ってるけど、これ、口腔ケアじゃないの」
これも想定済みだ。
「ちゃいますわ。口腔リハですわ」
「じゃあ、具体的にどのようなことをしたんだね」
ここまで引っ張ってきたら院長の土俵になる。
この院長は訪問患者に対して真摯に口腔機能のリハビリに向き合っているみたいだ。
難しいリハビリの内容を技官に説明する。
口下手ではあるが、第3者が聞いてもホントにやってるんだろうな、という印象を与えるような話し方だ。
こういう時はワシみたいなんではなく、個別指導初心者のほうが技官ウケも良いのだろう。
「じゃあ、ちゃんとやっているのならそのようなことをしっかりカルテに記載しないとけないだろ。これじゃ、ホントにやっていてもやっていないことになるだろ」
一応は技官も院長の話を信じてくれているみたいだ。
いつもの技官の落とし文句だ。
「っていうことで、これ、返還の対象ですからね。良いですね」
院長のほうをチラリと見やると一応は演技で寂しそうな顔をして渋々認めている。
この院長は役者だ。
ふと笑いそうになるが今が一番良いところなので水を差してはいけない。
今回の訪問では時間かぶりと人かぶりさえ、指摘されなければOKだ。
技官も指摘するのが仕事なのでそれ以外のことで指摘されることは素直に認めるよう院長にも話をしている。
技官も寂しそうな顔をしながらも素直に認めている院長の表情を見て、一安心している感じだ。

重田 
Twitter @honma_kannin


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