Column


「とりあえず、これ、治癒転機欄に書いておいてね」
(重田先生、これには自主返還はないんか)
(あれへん。要は指摘事項が少なすぎるから一生懸命指摘事項を増やしとるんやろ)
(なんでや)
(そら、概ね良好にはしたくないんやろ。指導結果も経過観察になるんちゃうか)
(なんでやねん。誰がどう見ても概ね良好やないか)
(指摘事項の数によって指導結果が変わってくる。少なすぎたら概ね良好を出さなあかんねや)
(出したらよろしいやん)
(あほ、そんなもん出して、今度先生がまた個別指導にお呼ばれされることがあったら技官の問題になるやないか)
(おれ、そんなん知らん)
(ワシも知らんわ)
(じゃーなんや。概ね良好はないんか)
(無いことないで。新規は比較的出やすい)
(今まで見たことあるか)
(あーあるで。先生んとこと一緒の名古屋の先生で)
(ホンマか、歯科医師会にでも入ってたんか)
(入ってへん)
(すごいなぁ)
(あぁ、今はイケイケでしとる。言うてたわ)
(おれは概ね良好狙いで頑張ったのに、経過観察されるんはイヤや)
(ええやないか、されても。観察されるんはタダや)
(タダほど怖いもんはない、いうやないか)
この先生は大阪人でもないくせにキチンと丁寧にオチをつけてくる。
名古屋にいるのは勿体ない気がする。
「あー、あと…」
技官が指摘事項を指折り数えて言うている。
あと1個くらい指摘事項が欲しいのだろう。
「なんですの」
「このパノラマねぇ…」
技官も自分で言ってて辛いのだろう。
(パノラマの所見、オレはめちゃくちゃちゃんと書いたで)
(知ってる。言わしたり。)
「パノラマは写っているモノを全て書かないとイケナイんですよ」
「ぼく、ちゃんと書いてましたけど」
「いや、良いんだよ。先生はよく書けてる方だよ」
「じゃあ、何が問題なんですか」
「ほら、顎関節や上顎洞の所見、何もないから“特記事項なし”って書いてくれてるよね」
「…、はい」
「じゃあさ、健全歯にも同じように書かないとイケナイんじゃないかな」
(ムチャ言うてないか)
(あぁ、ムチャやな。技官も気まずそうに言うてるやないか。許したり)
(重田先生がハイハイ聞けいうから聞いてるのに。アイツら調子乗ってるやないか)
(大丈夫や。これで無事に経過観察分の指摘事項になった。これ以上はないで)
(イヤや。おれは堪忍ならん)
「先生、さっきからムチャ、言うのやめて下さいや。パノラマ所見、カルテの半分くらい書いてるで」
「うーん、そうなんだけどねぇ。量的な問題じゃないんだよなぁ」
技官も困った顔をして言うている。
いったん言ってしまったことは引っ込めることができないのだろう。
「いや、よく書けてるんですよ。でもね、ほら、この所見を読んでもねぇ」
何を指摘するのか悩んでいる。
窮鼠猫になるのが怖い。
(これくらいにしとき)
(あかん、ここで許したらアイツらナンボでも言うてくるで)
「まあまあ、そう怒らずに。もう、これで指導することは終わりですよね」
今まで横でスマホゲームをしていた立会人が助け舟を出す。
この立会人はやる気がないが、的確なアドバイスをしてくれるので助かる。
「そうです。もうこの指摘をしたら講評に入ろうと思ってたんですけどね」
申し訳なさそうにチラッと院長をみやる。

重田 
Twitter @honma_kannin


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