Column


「それではお部屋にお入りください」
けっこう早い段階でお呼びがかかる。
(なんか、えらい早よ呼ばれたな。あんまり、講評することないんやろな)
(そんなに早いんか)
(あぁ、いつもはもうちょっと時間がかかる。タバコ2本吸うには足らんけど、1本吸うには充分すぎるくらいの時間や。だからいつも2本目は途中で火を消す。もったいないと思いながら部屋に戻るわ)
(それ、何本目や)
(まだ、1本目なんや。相手も早よ終わらしたいんやろ)
(そうか、それやったらエエんやけどな)
そう言って院長と一緒に部屋に入る。
案の定、部屋に入ると、皆グダグダだ。
やる気が見られない。
「えー、講評に入りたいと思います」
と、ひと通り、指摘事項を述べたあと
「何か質問や聞きたいことはありますか」と聞いてくる。
「あ、あの、よろしいか」
事務官がおもむろに嫌な顔をする。よほど早く帰りたいのだろう。
「なんですの」
「経過観察ってあるやないですか。あれ、いつまで経過を観察されるもんなんですか」
「あー、いや。まだ経過観察と決まったわけじゃないから」
いかにもザ・役人の回答だ。
ワシはこんな感じの回答が嫌いではない。
「いや、決まってないですけど、そういう指導結果があるやないですか」
「そういう質問は然るべき時にしてもらって良いですか」
「然るべきって、指導通知が来てからですか」
「然るべき時は然るべき時です」
あはは、この事務官、面白い。こういう人、大好きである。
院長をチラッと見やるが消化不良を起こしている。
まあ分からなくもない。
「じゃあ、ちょっと。もう一つ、良いですか」
「はぁー、なんですか」
「いや、結局、今回の個別指導はどういった理由から指導になったんですか」
「あ、それね。健康保険法第73条に基づき行われましたが、なにか」
この事務官は意地が悪い。相手の言わんとすることを承知のうえでこのようなウンチクを言う。でも、嫌いなタイプの人間ではない。
「あ、いえ、そんなんじゃなくて、なにが原因で個別指導を受けることになったんですか」
「なにが原因、それは決まっているでしょ、前回再指導の通知が来たからじゃないですか」
「いや、その…」
頑張れ、院長。さっきの気合はどこへ行った。
あえて助け舟は出さず、この成り行きを見てみたい。
ワシも事務官の意地の悪さが伝染したのだろう。
「なんですか、さっきから」
「いや、だから。じゃあ前回の個別指導はなんで呼ばれたんですか」
「前回のことまでは分かりません。今回は再指導なので」
あはは。この事務官、オモロい。ワシが院長ならキレているのだろう。
「じゃあ、もう、いいです」
「あ、いいんですね。じゃあ終わります」
そこで立会人が軽く助言をしてくれる。
「まあ、多分、先生は個別指導の選定理由を聞きたかったと思うんだけどね、これは言えないことになっているんですよ。残念だけどね」
この立会人はずーっとスマホゲームをしている割には要所要所で良いアドバイスをくれる。
もしかしたら仕事をしない、いい人かもしれない。

重田 
Twitter @honma_kannin


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