Column


よく個別指導の経験もないような講師やコンサルが個別指導と聞けば「カルテ記載の充実」とバカの一つ覚えのように説くが、こういう現場の録音を聞いてみるとそれがいかに無駄な作業であるのかがよくわかる。
もちろん、技官や事務官の失礼のない程度の整理は必要だが、それ以上は労力に対しての実利が伴わない。
どれだけ所見を豊富にしたところでも、いくらでも指摘しようと思えば指摘できるところでもある。
逆にこういう取引があればラッキーなのだろう。
お互いがWIN-WINの関係になるためには長いものには巻かれたほうがいい時もある。
重鎮先生も初めての個別指導のわりには善戦している。
きっと年の功なのだろう。
技官も先ほどまでは反社みたいな口調だったが重鎮先生の物分かりの良さに穏やかになりつつある。
お互い打ち解けていた矢先に事務官が口を挟む。
事務官がチェックする項目は何度も多数の人間の目でチェックしているところだ。
にも関わらず、この事務官は何かしらのミスを見つけたのだろう。
さすがは事務官である。スーパーエリートはデキが違う。
ー「あの、先生ちょっとよろしいか」
ー「なんですの」
ー「デンチャーのクラスプ、何使ってますの」
ー「何やったかな、コバクロちゃいましたっけ」
ー「コバクロって、…、コバルトクラムのことですか」
ー「そうそう、それそれ」
ー「あのねえ、こういう場では略称を使わずに正式名称でお答えください」
きっとこの事務官、一瞬、アバクロを連想してしまったのだろう。
え、なに、アバクロ? アバクロンビー&フィッチ? いやちゃうか。
若い声をしてるけど考えていることはきっとオヤジなのだろう。
エリートのわりにはワシと似たような思考の持ち主かも知れん。
ー「すみませんねぇ、で、なんですか」
ー「納品書のほうにはニッケルってなってますがどうなんですか、これ。レセプトにはコバルトクロムで請求されていますが、物はニッケルなんですよ」
技工関係は足がつきやすいので皆で何度もチェックしたはずだ。そんな凡ミスをするわけがない。
ー「いや、きっとこれ技工所のミスでしょ。知らんけど」
技工関係でなにかしらの齟齬が生じた場合は技工所のせいにするのが一番である。
と、いうのも技工所の管轄は保健所である。
そのため、技工所のミスまでは厚生局の感知しない。
この重鎮先生は知ってか知らずか、なかなかの良い回答をしている。
ー「技工所のミスって何がミスなんですか。納品書だけのミスなのか、実際にクラスプがニッケルというミスなのか、どっちなんですか」
そんなことはどっちでも良い。
この事務官はエリートのわりにはオツムが弱い。
きっと、勉強はできるけど仕事はできないタイプなのだろう。


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