Column

「なぁ」
「なんや」
「あたしだけ置いて、逃げなや」
「大丈夫や」
「この前だって、ゴキブリ出たとき、あたしを置いて自分だけ逃げたやん」
いつの話だ、結婚する前の話をいまだにしてくる。
「アホ言え、結婚式の時に神父様の前で誓ったやないか、逃げません。アーメン、いうて」
どうでもいい話をしながら目当てのタコライス屋に着く。
ヨボヨボのおじいちゃんが接客をしている。
「あの人、日本人ちゃうの」
「そや」
「おじいちゃんに英語言うても分からへんのちゃうの」
「何言うとるんや。沖縄は昔はアメリカやったんや。あのじいちゃんも日本人顔やけど、半分以上はアメリカ育ちや」
「ややこしい顔やなぁ。てか、ホンマに英語でオーダーせなあかんの」
何がオーダーや。注文といえ。
「そや、注文表見てみ、ドル表記もされとるやろ。野菜タコライスも“Yasai”になっとるやないか。イケる」
「yasaiは日本語や。英語ではベジタボー、言うんや」
なにがベジタボーや、ベジタブルだろ。
「そんなウンチクはどうでもエエ。早よ英語で注文や。ちゃんとワシも横にいとくから」
「分かった」
といって早速、ヨボヨボのおじいちゃんに英語で話しかける。
「ヘロウ、…」
ヘロウやって、キモ。ハローだろ、バカ。笑ってしまいそうになる。
「なあ、通じへんよ」
「ちゃうちゃう、耳が遠いだけや。もういっぺん言うてみ」
「ヘロウ」
なんのテンションや。笑いそうになる。
日本人同士で話するときはテンション低いくせに、外人と英語で話すとテンション高くなるのがおる。
ああいうのを見ると、自分が英語を話すのが恥ずかしい。
「なんにしましょうねぇ」
「えっ、…日本語やん。あんた、嘘ついたやろ」
「アホ言え、ワシらが日本人と分かったから、日本語で話しかけてくれてるだけやないか。あの店員、エエ人やないか」
「嘘いいな、ホンマ怒るで」
嫁がキレ出しそうになる。旅先でキレるとややこしい。
「アホ、今は仲間割れを起こしてる場合やないんや。恐喝される。早よ、注文し」
そういって嫁が日本語で注文しだす。
日本語で話すときはテンションが低い。
あのさっきのテンション高い、ヘロウは何やってん。思い出し笑いをしそうになる。
注文し終わると、恥ずかしそうに靴を脱いでシナシナになったお札を広げて店員に渡している。
受け取るときは汚そうに指でお札の端っこをつまんで受け取っている。
あのジイさん、なかなか面白い。
ニヤニヤして見てると、ヨメがワシを睨みつけてくる。
「なぁ、さっきからええ加減なこと、言うてへん」
「あほ、こんなところでええ加減なこと言えるかいや。ワシらが警戒しながらメシ食いに来てるの、あの米兵も見とったで。これもあんたがちゃんとアピールしてくれたおかげや。ホンマ恩にきるで」
「なにが恩にきるよ。皆の前であたし、恥かいたやないの」
嫁がヒステリックを起こしてくる。
旅先で相変わらず、ややこしい女だ。
命の母を持ってくるべきだった。
「まあ、美味しいB級グルメ、食べて機嫌直してくれへんか」
ホンマに美味しいんやろね、と言いながらもパクパク食べている。
この嫁も小学校の頃は給食マズイわ〜、と言いつつお代わりしていたタチのだろう。


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