≪その講師はな、親友と二人で小さな店をスタート
させたのが、現在へ繋がる道の始まりやったんや。≫
「最初から居酒屋を始めた訳ではないんやな。」
≪せやねん、まずはわずか4坪の小さな店から
スタートやったんや。≫
「エラい狭いやんか。」
≪でもな、もうその頃からすでに片鱗は見え始め
とったんや。≫
「何の片鱗や?」
≪繁盛店の片鱗や。めちゃくちゃ流行ってな、
てんてこ舞いやったみたいやで。≫
「そないに流行ってたんか?」
≪おう。しかしな、4坪やから二人で十分やったん
や。回転率も悪くないし、最初からビジネスマイン
ドが身に付いとったんやな。≫
「そっからどう発展を遂げたんや?」
≪まあその前に、一つ小話を。≫
「そんなんエエ、て。早く本題に入ってくれや。」
≪エエから聞かんかい。ツカミが大切って言ったや
ないか。≫
「お得意の感動話か?イヤ、勧誘話か?」
≪五月蠅い。まあ、感動するかはお前次第や。
お前が水洗便所のようにキレイな心を持ってたら、
気持ちを動かされるやろう。≫
悟空と出会いたての頃の、チチみたいな心やな。
筋斗雲に乗れるくらい純粋な心や。
「じゃあ、そのツカミを聞いとこか。」
≪繁盛するに連れて、その親友と共に大きなハコで
居酒屋を経営しよう。その夢に向かって一蓮托生で
やっていこう、て誓い合ったったんや。≫
「共同経営は難儀ちゃうんか?奥さんとですら絶対
一緒に会社作るな、て言うやないか。」
≪余計な口を挟むな。ところがや、どうなったと
思う?≫
「その親友が、しこたま貯めた軍資金を持ち逃げ
したんか?」
≪それのどこに感動すんねん。ちゃう、亡くなった
んや。≫
「・・・ありがちなパターンやんか。」
≪フィクションちゃう、実話や。ちょっとは素直に
人の話聞けや。≫
「実話でも創作でもどっちでもエエんや。だいたい
勧誘って、そんな話引っ張ってくるやん。」
≪何の勧誘や、そんな不純物は混じってへん。道半
ばで亡くなった親友の分も必ず繁盛店を作る、て誓
いをパワーアップしたんや。≫
「だから、それはどっちでもエエがな。
で、肝心の店はどうなったんや?」
≪・・・ほんま、ガンジス川みたいに濁った心やな
。お前の方こそ一回死んだ方がええんちゃうか?≫
「それこそ余計なお世話や。てか、ガンジス川は聖
なる川や。流れとるのは聖水や。」
≪聖水・・・ゴクリッ≫
「ゴクリすな、秘密倶楽部の聖水コースか?」
≪思い出さすなや、エエとこで。今すぐ行きたく
なるやないか。≫
「ほな行ってきてエエで?その代わり、オレは今
すぐ帰るさかい。で、個別指導本番を万全の状態
で迎えたらよろしいわ。」
≪そ、そんなイケズ言わんといてや。悪かった、
後生や、この責任一生背負ってイキます!etc…≫
思いつく限りの謝罪の言葉を口にしている。余計に
軽薄な人間に見えるで。謝る時は、キラーフレーズ
一言と誠意を込めるだけでで十分なんや。
謝罪評論家が言っとったわ。知らんけど。
ホンマに帰りたくなる気持ちをグッと呑み込み、
話の続きを聞く事にした。
