ある開業医の話

自己啓発セミナー潜入記・その③

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≪その講師はな、親友と二人で小さな店をスタート

させたのが、現在へ繋がる道の始まりやったんや。≫

 

 

「最初から居酒屋を始めた訳ではないんやな。」

 

 

≪せやねん、まずはわずか4坪の小さな店から

スタートやったんや。≫

 

 

「エラい狭いやんか。」

 

 

≪でもな、もうその頃からすでに片鱗は見え始め

とったんや。≫

 

 

「何の片鱗や?」

 

 

≪繁盛店の片鱗や。めちゃくちゃ流行ってな、

てんてこ舞いやったみたいやで。≫

 

 

「そないに流行ってたんか?」

 

 

≪おう。しかしな、4坪やから二人で十分やったん

や。回転率も悪くないし、最初からビジネスマイン

ドが身に付いとったんやな。≫

 

 

「そっからどう発展を遂げたんや?」

 

 

≪まあその前に、一つ小話を。≫

 

 

「そんなんエエ、て。早く本題に入ってくれや。」

 

 

≪エエから聞かんかい。ツカミが大切って言ったや

ないか。≫

 

 

「お得意の感動話か?イヤ、勧誘話か?」

 

 

≪五月蠅い。まあ、感動するかはお前次第や。

お前が水洗便所のようにキレイな心を持ってたら、

気持ちを動かされるやろう。≫

 

 

悟空と出会いたての頃の、チチみたいな心やな。

筋斗雲に乗れるくらい純粋な心や。

 

 

 

「じゃあ、そのツカミを聞いとこか。」

 

 

≪繁盛するに連れて、その親友と共に大きなハコで

居酒屋を経営しよう。その夢に向かって一蓮托生で

やっていこう、て誓い合ったったんや。≫

 

 

「共同経営は難儀ちゃうんか?奥さんとですら絶対

一緒に会社作るな、て言うやないか。」

 

 

≪余計な口を挟むな。ところがや、どうなったと

思う?≫

 

 

「その親友が、しこたま貯めた軍資金を持ち逃げ

したんか?」

 

 

≪それのどこに感動すんねん。ちゃう、亡くなった

んや。≫

 

 

「・・・ありがちなパターンやんか。」

 

 

≪フィクションちゃう、実話や。ちょっとは素直に

人の話聞けや。≫

 

 

「実話でも創作でもどっちでもエエんや。だいたい

勧誘って、そんな話引っ張ってくるやん。」

 

 

≪何の勧誘や、そんな不純物は混じってへん。道半

ばで亡くなった親友の分も必ず繁盛店を作る、て誓

いをパワーアップしたんや。≫

 

 

「だから、それはどっちでもエエがな。

で、肝心の店はどうなったんや?」

 

 

≪・・・ほんま、ガンジス川みたいに濁った心やな

。お前の方こそ一回死んだ方がええんちゃうか?≫

 

 

「それこそ余計なお世話や。てか、ガンジス川は聖

なる川や。流れとるのは聖水や。」

 

 

≪聖水・・・ゴクリッ≫

 

 

「ゴクリすな、秘密倶楽部の聖水コースか?」

 

 

≪思い出さすなや、エエとこで。今すぐ行きたく

なるやないか。≫

 

 

「ほな行ってきてエエで?その代わり、オレは今

すぐ帰るさかい。で、個別指導本番を万全の状態

で迎えたらよろしいわ。」

 

 

≪そ、そんなイケズ言わんといてや。悪かった、

後生や、この責任一生背負ってイキます!etc…≫

 

 

思いつく限りの謝罪の言葉を口にしている。余計に

軽薄な人間に見えるで。謝る時は、キラーフレーズ

一言と誠意を込めるだけでで十分なんや。

 

 

謝罪評論家が言っとったわ。知らんけど。

 

 

 

ホンマに帰りたくなる気持ちをグッと呑み込み、

話の続きを聞く事にした。

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