ある開業医の話

自己啓発セミナー潜入記・その⑦

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≪とどめのサプライズは、店をクローズして貸切りにした時の話や。≫

 

 

「サプライズで、近隣住民が皆でハッピーバースデー合唱か?」

 

 

≪ちゃちゃ入れんなや。≫

 

 

「今度は一体、どんな茶番が用意されとったんや?」

 

 

≪茶番って言うな。その日はな、従業員の家族が招待されたんや。≫

 

 

「それが、そんな大げさなサプライズになるんか?」

 

 

≪大げさって言うな。普段から支えてくれとる家族

に、ありったけの感謝を込めた接客をするんや。≫

 

 

「何かまた、怪しいフレーバーがしてきたやんけ。」

 

 

≪これのどこが怪しいんや。愛に満ちた空間が広が

っとったで?そこに愛はあるのかい?そこに愛はあるんか?≫

 

 

お前は江口洋介か。大地真央か。

 

 

 

・・・何の勧誘や?何のマインドコントロールや?

 

 

 

「で、その接客を延々と動画で見させられるんか?」

 

 

≪まあそれはイントロや。しかしそれにしても、

従業員の調教が隅々までイキ届いとる、近くに

あればサイコーな居酒屋やで。≫

 

 

 

調教ちゃう、教育や。骨の髄までM野郎が。

 

 

 

「みんな、秘密倶楽部で調教されてきたんちゃうか?」

 

 

 

≪あそこでそんな調教はしてへん。おれを見たら、分かるはずや。≫

 

 

 

・・・確かに。

 

 

 

「その通りやな。お前は、手を変え品を変えシバか

れたいだけの欲しがり番長やからな。他人には何も

与えない、自己啓発とは対極に位置しとる人間や。」

 

 

≪おれも与えとるで?頂戴した時のリアクションや

。それをギブしとるから、さらなるテイクが手に入るんや。≫

 

 

「ちょっと何言ってるか分かんない。」

 

 

≪もうエエ、とにかくや。従業員の熱過ぎる魂が、

その居酒屋の原動力や。だからその家族に対して

日頃の感謝を伝えよう、て社長の心遣いが形として提供されたんや。≫

 

 

「だから要するに、その接客のハウツービデオやろ?」

 

 

≪ホンマお前は何にも分かってない。この動画には

な、最後の締めがあったんや。≫

 

 

「夏目三久アナを送別した時の、我武者羅應援團

みたいな締めか?」

 

 

≪んなもんちゃう、あれはやかましいだけやろ。

一人一言や。≫

 

 

「なんそれ。」

 

 

≪従業員が一人ずつ、それぞれ招待した家族に言葉を述べてイクんや。≫

 

 

「完全なる体育会系のノリやないか。」

 

 

≪だからこそ、熱いんや。熱盛や。熱男や。≫

 

 

「まあ何でもエエんやけど。それはそれで感動系なん?」

 

 

≪あのなあ須藤、このストーリーを想像しただけで

泣けてこーへんか?全米が泣いた話やで?≫

 

 

「ちょっと何言ってるか分かんない。」

 

 

≪皆泣きながら、家族にこれまでの感謝とこれから

の覚悟を絶叫するんや。家族も涙がちょちょ切れと

るし、サイコーに胸が熱くなったで。≫

 

 

「何か怪しい団体みたいやんか、恐くなってきたで。」

 

 

≪お前みたいに軽薄な人間には分からん話やろう。

要するに、利他の精神を持って、愛する人間のため

に生きる尊さを説くセミナーやったんや。≫

 

 

 

・・・わざわざ行って聞く必要あるか?と思ったが

、人の価値観に口を出す必要もないやろう。

 

 

恍惚とした友人の表情を見て、調教と洗脳が施され

た人間のメンタルに、思いを馳せてみた…

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