≪とどめのサプライズは、店をクローズして貸切りにした時の話や。≫
「サプライズで、近隣住民が皆でハッピーバースデー合唱か?」
≪ちゃちゃ入れんなや。≫
「今度は一体、どんな茶番が用意されとったんや?」
≪茶番って言うな。その日はな、従業員の家族が招待されたんや。≫
「それが、そんな大げさなサプライズになるんか?」
≪大げさって言うな。普段から支えてくれとる家族
に、ありったけの感謝を込めた接客をするんや。≫
「何かまた、怪しいフレーバーがしてきたやんけ。」
≪これのどこが怪しいんや。愛に満ちた空間が広が
っとったで?そこに愛はあるのかい?そこに愛はあるんか?≫
お前は江口洋介か。大地真央か。
・・・何の勧誘や?何のマインドコントロールや?
「で、その接客を延々と動画で見させられるんか?」
≪まあそれはイントロや。しかしそれにしても、
従業員の調教が隅々までイキ届いとる、近くに
あればサイコーな居酒屋やで。≫
調教ちゃう、教育や。骨の髄までM野郎が。
「みんな、秘密倶楽部で調教されてきたんちゃうか?」
≪あそこでそんな調教はしてへん。おれを見たら、分かるはずや。≫
・・・確かに。
「その通りやな。お前は、手を変え品を変えシバか
れたいだけの欲しがり番長やからな。他人には何も
与えない、自己啓発とは対極に位置しとる人間や。」
≪おれも与えとるで?頂戴した時のリアクションや
。それをギブしとるから、さらなるテイクが手に入るんや。≫
「ちょっと何言ってるか分かんない。」
≪もうエエ、とにかくや。従業員の熱過ぎる魂が、
その居酒屋の原動力や。だからその家族に対して
日頃の感謝を伝えよう、て社長の心遣いが形として提供されたんや。≫
「だから要するに、その接客のハウツービデオやろ?」
≪ホンマお前は何にも分かってない。この動画には
な、最後の締めがあったんや。≫
「夏目三久アナを送別した時の、我武者羅應援團
みたいな締めか?」
≪んなもんちゃう、あれはやかましいだけやろ。
一人一言や。≫
「なんそれ。」
≪従業員が一人ずつ、それぞれ招待した家族に言葉を述べてイクんや。≫
「完全なる体育会系のノリやないか。」
≪だからこそ、熱いんや。熱盛や。熱男や。≫
「まあ何でもエエんやけど。それはそれで感動系なん?」
≪あのなあ須藤、このストーリーを想像しただけで
泣けてこーへんか?全米が泣いた話やで?≫
「ちょっと何言ってるか分かんない。」
≪皆泣きながら、家族にこれまでの感謝とこれから
の覚悟を絶叫するんや。家族も涙がちょちょ切れと
るし、サイコーに胸が熱くなったで。≫
「何か怪しい団体みたいやんか、恐くなってきたで。」
≪お前みたいに軽薄な人間には分からん話やろう。
要するに、利他の精神を持って、愛する人間のため
に生きる尊さを説くセミナーやったんや。≫
・・・わざわざ行って聞く必要あるか?と思ったが
、人の価値観に口を出す必要もないやろう。
恍惚とした友人の表情を見て、調教と洗脳が施され
た人間のメンタルに、思いを馳せてみた…
