非モテ院長のゴミ経営記 勤務医時代(その10)
待たせたな。
普通に
須藤ちゃんに怒られたわ。
さて、なので、今日は前戯なしのさっそく本番のヒデとのナンパ修行の話をしよう。
非モテ院長のゴミ経営記 勤務医時代(その7)
の最後にあったように俺が全然声掛けできなくて、イラついていたヒデが無茶ぶりをしてくる話だ。
ヒデは前述したとおり普段から何をしているか分からない男だったが、
その昔、出張マッサージをしていたらしく、その客が理事長で、そこで知り合い現在のポジションにいることとなったようだった。
そして、昼休み、一緒に飯を食っていると、
そのマッサージを再び始めるからビラ配りをやれと俺に言ってきた。
ビラ配りくらいなら簡単だ。ヒデもナンパ落ちこぼれの俺のためにめちゃくちゃハードルを下げてくれたんだと思っていた。
がしかし、やはり、ヒデみたいな人間がそんなゆとり教育をするわけがなかった。
その出張マッサージのビラには手足の生えたバナナがマッサージしているロゴが入っていた。
マジでセンスがない。
しかも書いてある電話番号はヒデの090から始まる携帯電話の番号だ。
怪しすぎて誰がこんなもんかけるんだ?と思った。
そのセンスのないビラに驚愕している俺に
ヒデは「山崎クン、これめっちゃいいやろ?」と言ってきた。
なんでバナナなのかとか、色々ツッコミどころ満載だがいちいちそこに関して議論するのも時間の無駄だし
「いいすっすね、これを配ればいいんですか?」と聞いた。
これを配るだけなら全然心理的ハードルはなかった。
ヒデは「ん、そうやで。で、山崎クンはバナナの着ぐるみ着て配るんや」
と言って、アマゾンでポチったというバナナの着ぐるみの画像を見せてきた。
こういうチンピラっぽい輩は、ファッションセンスはあるのに、こういうものに関してはマジでセンスがない。
そういえば、別の分院の新規オープンの時もヒデはクッピーラムネのウサギの着ぐるみを着て客引きをしていた。
全然テーマパークの着ぐるみ的なキャッチーでかわいい動きをしない、眼の血走ったウサギに子供たちは
あとずさっていた。
そして、このバナナは頭頂部の黒い部分を前顔面に移動させ、付属の耳のカチューシャと赤いTシャツを着るとプーさんになるらしい。
「マジっすか、、、」
「山崎クンはこれくらいしなどうにもならんわ、これでとりあえず診療終わりに駅前のスクランブル交差点
で100枚くばろか」
「で、もし、おまわりが来たら、ぷーさんに変身してやり過ごすんやw」
たいがいテキトーな理事長も常々ヒデのことを「テキトーな男でぇ」
といっていたが、ほんとにテキトーなことばっかり言う。
ぷーさんに変身してどう警官をやり過ごすのかわからない。
しかし、そんなところは何とでもなるということなんだろうということが、
おそらく警察にちょくちょくお世話になっているであろうヒデが言うことで証明されていたし、
それと同時に、すべてをいちいち理屈で問いただそうとしていては、この完全に逆サイドにいる男にはなれないんだなと思った。
このテキトーさ、いや、もはやテキトー力という一つの能力値といってもいいだろう、
これがナンパにおいても男の人生をうまく生きていくにもかなり重要な要素であることがだんだんわかってきた。
ただ、理事長とヒデの二人はテキトーすぎるところがあるので、と言うよりかはテキトーすぎるところしかないので
常に自分の中で明確にラインを引いておいて、そのラインを超えない範囲では最大限一緒になってテキトーをやっていった。
結果、今では丁度よい塩梅のテキトーさを身に着けることができたと思っている。
そして、俺は診療が終わり、医院の控室でバナナに着替え、スタッフが退社したころを見計らって
いよいよスクランブル交差点へと突入し、そこで俺は大いなる気づきと学びを得るのであった。
つづく