≪でな、居酒屋経営もその大和魂がベースになっとるんや。≫
「どういう事?」
≪決して利己主義ではない、利他主義でいかんかい!て事や。≫
だからそれは、稲盛和夫やって。
「わざわざ言われるまでもなく、現代のサービス業
はそういうスタンスでイカんと、すぐ潰れるんと
ちゃうんか?」
≪黙って聞かんかい!そんな気持ちが微塵もない
飲食店も、いっぱいあるやろがい!≫
確かにいっぱいある。でもそんな店、二度と行かん
かったらエエだけやん。そしたら勝手に淘汰されて、
いつの間にか違う店に変わっとるわ。
≪そこの従業員は誰のために仕事しとるか、お前に分かるか?≫
「んなもん、お客様のために決まっとるやないか。」
≪お前は何も分かってない。とんだ火星ホーケー技官や。≫
宇宙人みたいに言うな。
「じゃあ一応聞いたるわ。誰のためや?」
≪お客様、スタッフ、店、そして・・・自分の家族や。≫
「何や、居酒屋で特攻する気かいな?」
≪お前は、売国奴か。≫
「だから結局、何が言いたいんや?」
≪だから、利他の精神と言ったやないか。自己犠牲
を軸として、その店に関わる全ての人のために、そ
してひいては自分の家族のために・・・生きるんや。≫
「今流行りの、やりがい搾取か?給料めっちゃ安いんか?」
≪どれだけ心が荒んどるんや、お前は。給料までは
知らんけどな、そこから見せてもらった動画では、
皆イキイキして働いとったで?≫
「動画?一体どんな内容や、それ。」
≪普段の仕事風景から始まってな、皆イキイキして
働いとったで?≫
「それさっきも聞いたやん。イキイキしてからどう
なったんや?」
≪お前は一体、何滴ガマン汁出すんや?まあエエわ
。とにかく自分の医院で、これくらい意識が高く働
いてくれるスタッフがいてくれれば何も言う事ナシ
オちゃん、てレベルや。≫
・・・意識高過ぎる系は何かと大変やで?
≪でな、場面は一組のお客さんのサプライズ誕生日
パーリーピーポーや。≫
「パリピ?よくあるサプライズでケーキ出すパターンちゃうんか?」
≪それがな、そこは一味違うんや。≫
「ケーキの変わりに、刺身の誕生日盛りでも出てくるんか?居酒屋だけに。」
≪なんでやねん、どシロートが。手順を説明するで
?まずは、店内が消灯される。そして、線香花火み
たいなろうそくに火を付けて、従業員がテーブルま
で運んでくる。≫
「どこの店でも目にする光景やんか。」
≪ここからが一味違うんや。その客の仲間、従業員
プラス店内のお客さん全員で【ハッピーバースデー】を歌うんや。≫
「え?」
≪だから、お客さん全員を巻き込んでのサプライズ
、てのがその居酒屋のスタイルなんや。≫
「何の罰ゲームや。縁もゆかりもない他人の誕生日
って言われても、他のお客さんにとってはあくまで
全く興味の無いイベントに過ぎんやないか。」
≪ホンマお前は何も分かってないな。≫
「何を、や?」
≪他のお客さんには、入店時にOKか確認済みや。
その上で皆、熱い気持ちでアニバーサリーや。≫
「オレにとっては地獄でしかないんやけど。うすら
寒くて泣けてくるで。」
≪お前はホンマ、人間の心があるんか?≫
「ちなみにそれ、全員動画用のサクラって訳じゃな
いよな。SNS用のレンタル友達みたいなヤラセちゃうよな?」
≪・・・≫
「信じるな、疑え。だよ・・・?」
≪技官の浅ましさを思い知ったわ。どう解釈しようが、お前の勝手や。≫
「じゃあオレは、とことん逆張りでイクわ。疑いまくって聞いとくわ。」
≪・・・話はこれだけで終わりじゃないんやぞ?≫