保険算定部

はじめてみよう!口腔機能管理

全国の歯科医院で口腔機能管理料の算定状況はどのようなのかを知りたいと思いまして,Twitterにてアンケートをとってみました。

母数は少なく,Twitterユーザーは比較的若い層が多いと思われますので実態とかなり解離していると考えます。しかしながら,参考にはなると思います。

つまりは,算定に対してモチベーション高めな先生方においても過半数以上(約55%)が口腔機能管理料を算定したことがないとの回答を得ました。

それは,なぜなのでしょうか?

おそらくは,算定の仕方がわからない…何をすればよいのかがわからない…につきるのかと考えます。

本題です。

口腔機能管理料の算定をするには口腔機能低下症の診断病名が必要となります。

そもそも口腔機能低下症とは何なんでしょうか?

口腔機能低下症とは,
う蝕や歯の喪失など従来の器質的な障害とは異なり,いくつかの口腔機能の低下による複合要因によって現れる病態です。

口腔機能低下を適切に診断し,適切な管理と動機付けを行うことで,
さらなる口腔機能低下の重症化を予防し,口腔機能を維持,回復することが可能となります。

そのためには,中年期からの口腔機能低下症の診断と管理を適切に実施する必要なのです。

口腔機能低下症の診断としての診断基準では,

口腔機能低下症の7つの下位症状

・口腔衛生状態不良
・口腔乾燥
・咬合力低下
・舌口唇運動機能低下
・低舌圧
・咀嚼機能低下
・嚥下機能低下

のうち, 3項目以上該当する場合に口腔機能低下症と診断されます。

口腔機能低下症の診断には,

口腔機能精密検査として, 7つの下位症状についての検査を行います。
2つの方法が示されている場合は,どちらの検査方法を用いてもよいです。
原則として, 7項目すべての検査を行います。

平成30年の時には,口腔機能低下症の診断には,口腔機能精密検査として,7つの下位症状についての検査を行うこと。
2つの方法が示されている場合は,どちらの検査方法を用いてもよいということのみで,
原則として, 7項目すべての検査を行うという文言がありませんでした。

今後は,7項目すべての検査を行わなければならないということになります。

口腔機能管理料の算定要件は?

口腔機能管理料とは,50歳以上の歯の喪失や加齢,これら以外の全身的な疾患等により口腔機能の低下を認める患者に対して,口腔機能の回復又は維持,向上を目的として行う医学管理を評価したものをいいます

関係学会の診断基準により口腔機能低下症と診断されている患者のうち,

・咀嚼機能低下(咀嚼能力検査を算定した患者に限る)
・咬合力低下(咬合圧検査を算定した患者に限る)
・低舌圧(舌圧検査を算定した患者に限る)

のいずれかに該当するものに対して,継続的な指導及び管理を実施する場合に当該管理料を算定します

実際に何をするのか?

①全身状態

・基礎疾患の把握
・服用薬剤の把握
・栄養状態,持続的な体重減少の把握
・摂取可能食品,摂取食品の多様性の評価
・肺炎の既往などの把握
・脳血管疾患の麻痺の種類や程度の把握

②栄養状態

・体重変化の確認
・Body Mass Index(BMI)の確認
・食事内容や食形態の確認・指導

③口腔衛生状態不良

・歯科医師・歯科衛生士による口腔衛生管理
・患者や家族等による口腔ケアの指導
・適切な経口摂取の指導

④口腔乾燥

・水分管理・水分補給の指導
・内服薬剤の確認・医科への照会
・唾液腺マッサージの指導・健口体操
・口腔保湿剤の指導・加湿・ネブライザー・マスク着用等の指導
・含嗽指導

⑤口唇の運動機能の低下

・「パ」の繰り返し発音訓練の指導
・口唇の自動運動(口角牽引,口唇突出など)の指導
・吹き戻し(ピロピロ笛)を用いた訓練の指導

⑥口唇の筋力の低下

・抵抗訓練器具(りっぷるとれーなー(松風)等)の訓練指導
・頬のふくらまし訓練

⑦舌の運動機能の低下

・可動域訓練,運動訓練,無意味音音節連鎖訓練,構音訓練,早口言葉
・「タ」,「カ」の繰り返し発音訓練の指導
・舌の自動運動(舌の前方や左右への突出など)の指導

⑧舌の筋力の低下

・抵抗訓練器具(ペコぱんだ(ジェイ・エム・エス)等)による訓練指導

⑨咬合力・咀嚼機能の低下

・咬合支持の確立,義歯の製作・調整
・歯周治療
・咀嚼指導
・食事指導,介護食,経口栄養補助食品の活用,管理栄養士との連携
・摂取食品多様性の増加の指導,食品バランスガイドの活用

⑩嚥下機能の低下

・嚥下体操の指導
・開口訓練
・嚥下の間接訓練・直接訓練

再評価の口腔機能精密検査の期間は?

再評価は,管理計画に従って概ね6か月毎に口腔機能精密検査により行います。
再評価時には,管理計画書を作成し,交付します。
再評価時に口腔機能精密検査での低下の該当項目が2項目以下となった場合には,
口腔機能低下症からの回復(治癒)と考えられるが,
口腔疾患の重症化予防および長期的な継続管理の重要性の観点から,管理の中止により再び
口腔機能低下をきたす可能性があると総合的に判断される場合には,
患者の同意を得たうえで管理を継続することができます。

口腔機能管理加算から口腔機能管理料へ

平成30年度改定時においては歯科疾患管理料の加算としての口腔機能管理加算が,令和2年度改定で口腔機能管理加算から口腔機能管理料になりました。
歯科疾患管理料算定時にしか算定できなかった口腔機能管理加算が,
令和2年度改定でいつでも算定可能な口腔機能管理料となり算定しやすくなりました。

これは歯科医院でもっと口腔機能管理料を算定して口腔機能低下症を管理して,
放置することにより咀嚼障害,摂食嚥下障害など口腔の機能障害に陥り,または,機能障害を
きたし,
また,低栄養やフレイル,サルコペニアを進展させるなど全身の健康を損なわないようにしてほしいということ。

高齢者においても,う蝕や歯周病,義歯不適合などの口腔の要因に加えて,
加齢や基礎疾患によっても口腔機能が低下しやすく,
また,低栄養や廃用,薬剤の副作用等によっても修飾されて複雑な病態を呈することが多いため,
個々の高齢者の生活環境や全身状態を見据えて口腔機能を適切に管理する必要があるということと考えます。

歯科疾患管理料との関係

歯科疾患管理料又は歯科特定疾患療養管理料を算定した患者であって,
口腔機能の低下を来しているものに対して,
口腔機能の回復又は維持を目的として口腔機能管理料は算定します。

つまりは継続管理を前提として口腔機能管理料は算定されます。よって,簡単にはリコール再初診はおこしづらいとも考えられます。
何年空いたら初診に戻せるかとか,そういうことではないと思います。
期間が空いても管理してほしいということが長期加算という実態のない算定の出現と私は解釈しています。

患者数が少ない医院にとっては口腔機能管理料の算定が売上に有利になるかも

歯科医院過剰ともいわれ集患に成功した歯科医院と,そうでない歯科医院の二極化はますます広がっていくと思われます。
患者数が少なければアポイントに比較的余裕があると思います。

そのようなときに,口腔機能低下症を診断して,口腔機能管理を実施してみてもよいかもしれません。
治療のみすぐ終わってしまい空き時間が出てしまうよりは,
今一度,その患者さんに必要な療養の給付を選択して,算定してみてください。

 

参考文献 口腔機能低下症に関する基本的な考え方(令和2年3月 日本歯科医学会)

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