悪夢の院内運動会

悪夢の院内運動会⑥

  • 再生回数:385

深酒をした翌日の診療は堪えるで。酒臭くならんのは、体質的にラッキーやったな。

 

しかしそれにしても、休日であれば間違いなくグロッキーだが仕事になればきっちりスイッチが入る。やはり人生には、適度な緊張感が必須やで。

 

 

午前診をこなすうちに、二日酔いも覚めてきた。昼休みに入り、ホッと一息つく。

 

 

今日は早速、体育館を偵察しに行かなアカン。3か所チェックしにいく必要があるが、オレの体は一つや。残りの2つは、他所の勤務医に行ってもらう手筈を整えておいた。とても嫌そうにしていたが、院長にチクったるとクンロクをかまして渋々引き受けさせた。

 

 

交渉とは駆け引きだ。相手に弱みを握らせず、自分が優位を保ち進める必要がある。そして相手をヨイショして、気持ち良く動いてもらうんや。

 

て、キャバ嬢との駆け引きをライフワークにしていた先生に言われた事がある。あの先生、今もカモられとるんやろか。

 

 

オレが偵察しに行ったのは、オフィス街にある体育館や。地下にアイススケートのリンク、上階にプールやダンススタジオなどが常設されているスポーツセンターや。

 

何か体が疼くで、仕事サボって泳ぎたくなってきた。

 

 

しかしそんな事をすると、院長にシバかれてしまう。自らのミッションを遂行するため体育館の受付へ向かい、当日の予約を採得する。

 

 

「あのぅ、○月△日なんですけど、まだ空いてますか?」

 

 

ペラペラ・・・

 

 

<あぁ、空いてますよ。>

 

 

「じゃあその日に予約してよろしいか?」

 

 

<じゃあ候補に入れておきますね。>

 

 

候補?

 

 

<締めきり日までに他の希望者が入ったら、抽選になりますねん。それが無くてアンタだけやったら自動的に当選ですわ。>

 

 

早いもん勝ちちゃうんかい。しかし考えようによっては、その抽選に外れれば運動会自体が無くなるかもしれない。

 

そう、いかなる時もあえて前向きに捉えるという自己啓発本の言葉を思い出し、淡い期待を抱いて体育館を後にした。

 

 

他の2人にも電話で確認をとったところ、全く同じ条件だったらしい。

 

 

まあ果報は寝て待て、や。子供の頃、大雨で中止になって欲しいと懇願したイベントを思い出した。

 

 

そういう時は得てして気持ち良過ぎるくらいの日本晴れになる、という事も経験済みだ。

 

 

しかも今回は屋内だ。当選すれば、事実上中止がないという事だ。

 

 

となれば、前日に皆のドリンクに異物混入するしか手段はないのか・・・?

 

思わず林真須美が頭をよぎる。いや、あの後妻業の女か。

 

 

アカン、こんなしょーもない事ばかり考えているのがそもそも時間の無駄だ。

 

 

決まった事は変えようがない。これは個別指導と一緒やな。

覚悟を決めて、ベストを尽くしてクリアするしかないんや。

 

・・・後日、他の希望者が現れず3か所とも当選したという知らせが届いた...

コラムを読む