二次会に目を付けたのは、居酒屋からほど近いジャンボカラオケ広場、略してジャンカラや。
コロナ禍も重なり、気付けばカラオケとはご無沙汰や。もう二度と行く事が無いかもしれない事を考えると、他のレジャーも含め若気の至りとは貴い経験やったな。
思い出はモノクロームや。その都度どんな色を付けるかで、自分の人生に違った味が出る。大瀧詠一が言ってたな。
知らんけど。
二次会という存在そのものを久しぶりに思い出したが、店の移動は近いに越した事はないだろう。
昔は飲み会で次の店に至るまでの道程が口説きのミルキーウェイだったが、そんな事よりさっさとデートに誘う方が楽だと悟ってからは、よりスマートな行動が功を奏す事が多いと数多の経験をしたからだ。
どーせ脈ナシやと、いくら頑張ったところであっさり断られるだけやしな。需要がないところへのアプローチは単なる時間の無駄や。
知らんけど。
居酒屋を出てから二分足らずでジャンカラへと到着した。
煌びやかな明かりが心を刺激する。何かワクワクしてきたで。若干テンションが上がったところで、店内へと入る。ここでも事前に事情を説明していた事から、大部屋を内覧させてもらった。
・・・まあまあの広さやな。しかし、もっと広いとこが必要や。そう店員に伝え、もう一回り大きな部屋に案内してもらった。ドアを開けるや否や、大音量の歌声に鼓膜が刺激された。
どうやらお楽しみ中だったようだ。客の視線が一斉にこちらに注がれた。おい、外から部屋の広さを把握するだけで良かったんちゃうかと店員に八つ当たりしていると、歌っている途中で水を差された事で気分を害したのか、マイクを握っていた中島みゆきのようなディーヴァが、オレに何か一曲歌えとクンロクをかましてきた。
冗談じゃないで、何でオレがそんな事せなアカンのや。踵を返し部屋を出ようとしたところ、Zeebraみたいなラッパー気取りが、腕組みをしてドアの前で通せんぼしている。
まさに籠の中の鳥か。密室に閉じ込められながらこの状況から逃れる術を考える。
まあ大人は殴られた方が勝ちやからな、いくら慰謝料ふんだくったろうか。
と考えた矢先、部屋にいたパリピ達がオレを煽り出した。どうやら変なクスリはやってなさそうや。ただ酔っぱらってテンションが上がっただけのアホの集まりのようだ。
しゃーないから歌ったるか、と覚悟を決めて竹内力の【欲望の街】を全力で歌い切った。
皆、キョトンとしている。昔あれだけ日曜日の昼に放送されていた【ミナミの帝王】もすっかり見なくなったせいか、存在そのものを知らんみたいや。世代間のギャップを感じるで。
最近話題になった千代の富士みたいやな。知らんけど。
ドアの前で腕組みしていたZeebraに至っては、空気を読まんかいというメンチを切っているが、そんなもん知るか。
やはりネゴシエーションは、いかに自分のペースに持っていくかが重要だ。相手をのみ込めば、こちらの優位に交渉を進める事が出来る。
とりあえず部屋から出て、外の空気を吸う。しかしなんでボックスの空気ってどこもあんな淀んでるんや。
とりあえず先程の部屋に決め、アポを取った。とりあえず、ミッションコンプリートや。
・・・いや待てよ、もう一仕事残ってたわ。
