「のっけから?」
<手を繋ぎ始めてな。>
「手を?どういう事や?」
<その前に、まずはシロナの特注チェアに座らせてな。>
この期に及んでまだマウントを取ろうとしている。このプライドの高さも、積もり積もった遠因の一つかもしれんな。
知らんけど。
「特注?ナンボしたんや?」
一応、興味があるフリをしておく。
<そんなに気になるんか?まあ軽く、800万は超えるけどな。>
野崎のドヤ顔が止まらない。きっとシロナの営業にとっても、楽な商談だった事だろう。
「一台で?」
<当たり前や。シロナのフラッグシップモデルやで?トヨタで言ったらセンチュリーやで?>
同じシロナの中でもマウントを取ろうとしている。
「凄いやんか~!で、どんな兵器が搭載されてるん?」
<おう、聞きたいか?あれやろ、これやろ・・・>
人間は自分が興味無い話を聞かされると、思わず食事の事が頭をよぎるらしい。
今は新世界で晩御飯中や。従って、オレの頭の中では明日の朝御飯が駆け巡っている。奮発してヨード卵のTKGでも食べようか。
<・・・おい!>
「ビクゥ!」
<何がビクゥ!や。人の話聞いとるんか?>
「当然や。シロナのウェポン、羨ましい事この上なしやで。」
<せやろ?○▼□#%&・・・>
いつまでマウント取ったら気が済むんや。
思わず一昔前、一世を風靡した【PRIDE】にてマウントとってばっかりのカードを立て続けに見た時の事を思い出した。
どシロートがあの展開の試合ばっか見ても、途中でしんどくなってくるだけや。
知らんけど。
従って、マウントばかり取ってくる野崎に限界を感じてきた。
「なあ、野崎よ。」
<何や?>
「そのシロナの最上級チェアで下歯槽神経麻痺を起こしたんやろ?」
<・・・>
「それって、交通事故起こしてから『オレの車はセンチュリーや!』て言ってるのと変わらんような気がするんやけど。」
<・・・>
「日本一安いチェア使ってても、安全・迅速・確実に患者様に向き合う事がオレ達デンティストにとって一番大切な事じゃないんか?」
<・・・>
「高いチェア使ってるからって、そんなケアレスミスしたら意味ないんちゃうか?」
<・・・意味ないわけないやろ!ウチの診療圏では、患者様満足度No.1やぞ?>
DHCみたいな事言うな。
「もちろんお前が日本で最高水準の技術を持って、なおかつ設備も最高なのは凄いと思うで。でも、今はそういう話じゃないやろ。」
<やっぱり憂鬱な話してたら、ちょっとは景気のエエ話したくなるやん。>
・・・なんとなくオレに相談を持ちかけた理由が分かった気がする。
野崎は誰にも相談できへんと言っていたが、誰も相談に乗ってくれなかったのだろう。
まさに日頃からの態度が、いざという時にモノを言う典型か。
子供同士じゃないんや、大人として嗜みを持った付き合いをする必要があるでしかし。
知らんけど。
「じゃあそろそろ、Vシネの続き聞かせてもらってよろしいか?」
