<まず、術前の画像なんやけどな。>
ふむふむ・・・明らかに歯槽頂から下顎管までの
距離が短いな。
「で、CTは?」
<技官がそんなん見て、分かるんか?>
この期に及んで、まだマウントを取りたがっとる。
そのドヤ顔が目障りや。
「じゃあ何でわざわざこんなとこで、こんなモン
見せとるんや?」
<いや、読影できるかどうかの確認や。>
「まあ人並みにはな。それより、エラい歯切れ悪い
やないか。」
<そうか?いつもの俺やないか。>
「いや、なんか言動が不自然やと思ってな。
そもそも、何年も会ってないオレよりも、
相談する相手はたくさんおるやろ?」
<それが出来たら、技官みたいなクソはいらんのや。>
いちいち上から目線な態度が癇に障る。
「じゃあ俺なんかに頼むなや、ほな!」
そう言って、伝票を持って立ちあがった。
せっかくの休日に、とんだ無駄足やったで。
とりあえず、二人分の支払いを済ませて店を出た。
そして、隣にある高島屋へ向けて歩を進めようとしたところ、
<ま、待ってや!須藤・・・>
振り返れば、小走りの野崎がいた。イスラム国に邦
人が処刑された報を受けた時の管官房長官のように
、わざとらしく深刻な顔をしながら、急いでオレを
追いかけてきた。
男に後ろ髪引かれても気色悪いだけや。てか、支払
い済ませたのを見計らって追いかけてくるところが
、ビミョーなセコさを醸し出している。
そう言えば学生時代飲みに行った時は、常に一円
単位で割り勘を求められた事を思い出した。
紀州のドンファンを見習わんかい。全く、野崎の名
が泣く事この上なしや。
「どないしたんや?この期に及んでまだ何かあるんか?」
<いや、俺が悪かった。実はな・・・>
全く息が切れていないところが、野崎のセコさを
余計に強調している。胡散臭いにも程があるで。
「だから何や?こっちもそれ程暇じゃないんや。」
<実はな、メンタ―にも友達にも恥ずかしくて相談
出来んのや。
あれだけデカい口叩いといて、【下歯槽管】を損傷したなんて・・・>
「だから、【下顎管】や。」
どんなデカい口を叩いてたんか気になるところや。
まあ、この調子でマウント取りまくってたんやろけど。
<・・・だから、もはや友達のいてなさそうな須藤に白羽の矢を立てたんや。>
いちいち人をディスらんと話を進められへんのか。
そう言えば小学校や中学校でも学年に一人はおった
な、こういうヤツ。子供時代が懐かしいで。
「大きなお世話や。しかしまあ、口が堅いのだけは
確かや。エエ選球眼しとるやないか。」
面白そうな話が聞けそうなので、とりあえず泳いどくか。
<やろ?良かった、とりあえず続きを話したいから、店を変えよか。>
いや、今のラウンジでエエんやけど。しかし、野崎
の方を見るとバツの悪そうな表情をしている。
あの美人ウエイトレスに男同士の痴話げんかみたい
に思われてそうで、オレも気まずくなってきた。
「じゃあ、とりあえず道頓堀に向かおか。」
