トラブルはいつも突然に

トラブルはいつも突然に~⑤~

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<まず、術前の画像なんやけどな。>

 

 

ふむふむ・・・明らかに歯槽頂から下顎管までの

距離が短いな。

 

 

「で、CTは?」

 

 

<技官がそんなん見て、分かるんか?>

 

 

この期に及んで、まだマウントを取りたがっとる。

そのドヤ顔が目障りや。

 

 

「じゃあ何でわざわざこんなとこで、こんなモン

見せとるんや?」

 

 

<いや、読影できるかどうかの確認や。>

 

 

「まあ人並みにはな。それより、エラい歯切れ悪い

やないか。」

 

 

<そうか?いつもの俺やないか。>

 

 

「いや、なんか言動が不自然やと思ってな。

そもそも、何年も会ってないオレよりも、

相談する相手はたくさんおるやろ?」

 

 

<それが出来たら、技官みたいなクソはいらんのや。>

 

 

いちいち上から目線な態度が癇に障る。

 

 

「じゃあ俺なんかに頼むなや、ほな!」

 

 

そう言って、伝票を持って立ちあがった。

せっかくの休日に、とんだ無駄足やったで。

 

 

とりあえず、二人分の支払いを済ませて店を出た。

そして、隣にある高島屋へ向けて歩を進めようとしたところ、

 

 

<ま、待ってや!須藤・・・>

 

 

振り返れば、小走りの野崎がいた。イスラム国に邦

人が処刑された報を受けた時の管官房長官のように

、わざとらしく深刻な顔をしながら、急いでオレを

追いかけてきた。

 

 

男に後ろ髪引かれても気色悪いだけや。てか、支払

い済ませたのを見計らって追いかけてくるところが

、ビミョーなセコさを醸し出している。

 

 

そう言えば学生時代飲みに行った時は、常に一円

単位で割り勘を求められた事を思い出した。

 

 

紀州のドンファンを見習わんかい。全く、野崎の名

が泣く事この上なしや。

 

 

「どないしたんや?この期に及んでまだ何かあるんか?」

 

 

<いや、俺が悪かった。実はな・・・>

 

 

全く息が切れていないところが、野崎のセコさを

余計に強調している。胡散臭いにも程があるで。

 

「だから何や?こっちもそれ程暇じゃないんや。」

 

 

<実はな、メンタ―にも友達にも恥ずかしくて相談

出来んのや。

あれだけデカい口叩いといて、【下歯槽管】を損傷したなんて・・・>

 

 

「だから、【下顎管】や。」

 

 

どんなデカい口を叩いてたんか気になるところや。

まあ、この調子でマウント取りまくってたんやろけど。

 

 

<・・・だから、もはや友達のいてなさそうな須藤に白羽の矢を立てたんや。>

 

 

いちいち人をディスらんと話を進められへんのか。

そう言えば小学校や中学校でも学年に一人はおった

な、こういうヤツ。子供時代が懐かしいで。

 

 

「大きなお世話や。しかしまあ、口が堅いのだけは

確かや。エエ選球眼しとるやないか。」

 

 

面白そうな話が聞けそうなので、とりあえず泳いどくか。

 

 

<やろ?良かった、とりあえず続きを話したいから、店を変えよか。>

 

 

いや、今のラウンジでエエんやけど。しかし、野崎

の方を見るとバツの悪そうな表情をしている。

あの美人ウエイトレスに男同士の痴話げんかみたい

に思われてそうで、オレも気まずくなってきた。

 

 

「じゃあ、とりあえず道頓堀に向かおか。」

 

 

 

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