<具体的にはな、下唇に知覚麻痺が出現したんや。>
「舌は大丈夫やったんか?」
<舌については何も言ってなかったな。>
「で、どうやってカタ付けようとしたん?」
<ガイドライン通りや。それに従い、麻痺が出現した時の対処法として、早期にビタミン剤、神経賦活剤を投与した。>
「なんそれ。」
<お前みたいなヤツはな、もう一回大学生からやり直せ。そして国試を受けろ。そして落ちろ。>
「んな殺生な。もうあの試験勉強だけは、二度としたくないわ。」
<とにかく歯科医師は、死ぬまで勉強や。研鑽し続けろ。>
「そんなん言っといて、マヒってるやんけ。」
<やかましわ、偶発症や。全力を尽くした結果や。>
「チャラ見や、て言ってたやん。」
<いちいち人の揚げ足とんなや。>
「それが技官の性癖や。」
<ほんま、エエ性格になりましたね~?あぁ~~~ん?>
お前は、イヤミ課長か。あの役者、天国から地獄とはまさにこの事やで。
「まあ何でもエエねんけどな、で、何をどうしたんやったっけ?」
<まずは、アデホス(神経賦活剤)を6tab分3、コバメチンを6tab分3、それぞれ2週間分投薬や。>
「コバメチンコ?」
<しょうーもない下ネタを挟むな、あぁ~~~ん?>
だから誰やねん、お前は。
しかし、オレ達の席から右斜め45度の席に座っている女性2人組は、このやり取りを聞いてクスクス笑っている。【ミナミの帝王】に出てくる竹井みどりと石野陽子のような組み合わせだ。
若い頃はオバハンにしか見えなかったが、この年になるとエラい魅力的に見えてくるで。
しかし、ホンマに萬田銀次郎がやってきそうなので、視線は合わせず眼中に入れておく事にした。
「結構な量出すんやな。」
<それだけやないで。効果をみながら、そこから約3カ月投薬するんや。>
「堪らんなぁ、マヒられた上にヤク漬けやんけ。」
<・・・>
「あ、それとな、一つよろしいか?」
<何や?>
「【投薬】てな、薬を投げるって書くやろ?お行儀悪いから、【与薬】て言うところがあるらしいで。薬を与えるって、どっちにしろ上から目線やと思うんやけどな。」
<しょーもな!しょーーーもな!!どうでもエエわ!!!>
「技官っぽいやろ?こんなんしょっちゅうやで?」
<そら、そんな性格ひん曲がるわ。こんなヤツにはなりたくないもんやで。>
「しかし、や。こういうトラブルへのシューティングは、性格が曲がってた方が適してるんやで?性格良くて優しいのはエエんやけどな、カモられるだけや。ケツの毛毟られるだけや。」
<じゃあ、どないかしてくれるんか?>
「当たり前やないか、オレに出来る事は何でもするで?」
心にもない事を口にする。全盛期の松坂大輔が投げるスライダーのように、鋭く曲がった自分の性格に改めて感心した。まあ、言うのはタダやからな。
「で、そっからどないなったんや?」
