<初診時には特にそんな前兆はなかったんや。>
「普通やったんか?」
<おう、普通にケバいだけやったで。>
「それ以外は?Vシネ臭くなかったか?」
<どんな臭いやねん。胡散臭い感じはしたりしなかったりやったかな・・・>
「じゃあ、何でわざわざインプラントなんかに手を出したんや。」
<GPとして当然の話やないか。左下7番(注:前述の6番は誤り)が完全に歯根破折を起こしててな。>
「抜歯は止むを得ないな。」
<もちろん。だから当然の流れとして、抜歯後のコンサルテーションをしたんや。>
「どんな風に?」
<それこそ普通や。そのまま何もせず経過観察、カンチレバーブリッジ、1歯デンチャー、インプラントの説明をな。>
「自費をゴリ押ししたんか?」
<ゴリ押しなんかしてへん。それぞれの治療そのものに対してのメリット・デメリット、保険と自費のメリット・デメリットを十二分に説明したんや。>
「で、インプラントを選択したんや。」
<まあ金銭面で渋ってたけどな。>
「そういうのには手を付けへん方がええんちゃうか?」
<コンサルテーション、てのはそういうもんや。迷った時にはそっと背中を押してあげるんや。>
「二つ返事で高い金払う患者の方が、揉め事は少ない気がするんやけど。」
<そんなチキンな事言ってどないすんねん!患者様に最良の治療を提供するのが俺達の使命やろが!>
「まあ自分さえ納得してれば何でもエエんやけどな、それでその後は?」
<じゃあ順を追って話したろか?>
「よろしく頼んますわ。」
<まずはコンサルテーションで、抜歯即時埋入が決定した。>
「さすが、難儀な事やっとるやないか。」
<まあな、インプラントロジストの本領発揮や。>
またそれか。
<ソケプリして待時埋入でも良かったんやけどな。>
「ソケプリ?何のアプリや?」
<相変わらずオモロないヤツや。>
「だから何やねん、それ。」
<ソケットプリザベーションや。>
もちろん知っとるけどな、ここは野崎に気持ち良く泳いでもらわなアカン。
「あ、あぁ。それね、それ。」
<勉強不足ちゃうか?>
「もっと教えてくれへんか?」
<勉強熱心なのはエエ事や。いいだろう。>
串カツを食べながら、一通りソケットプリザベーションの講義を受けた。
嬉しそうな顔をしている。やはり、お悩み相談は相手に良い気分になってもらわなアカン。
より詳しく饒舌になってもらわんと、実態は見えてこーへんからな。
「ふむふむ。で、抜歯即時埋入を選択した理由は?」
<患者様にとって、治療期間の短縮は極めて大きなメリットや。なるべくすぐ噛めるようにして、患者様のQOLを考慮した選択や。>
「クオリティー・オブ・ライフか。誠意を持ってインフォームド・コンセントして、患者様とのラポールを構築した訳やな。さすが、デジタルデンティストリーやんか。」
適当に口から出まかせを言う。
<せやねん、そこが俺の人気の一つや。>
「それはどっちでもよろしいんやけどな。で、トータルでなんぼチャージしたん?」
