トラブルはいつも突然に

トラブルはいつも突然に~⑳~ 

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<その時にはな、例のオトコはまだ登場してないんや。>

 

「いつから出てくるんや?ワクワクが止まらへんのやけど。」

 

<ワクワクすんな!おかげでこっちは胃潰瘍にまでなったんや!>

 

「でも、まだトラブルは解決してないんやろ?胃に穴が何個開くか楽しみやな。」

 

<お前は、エエ加減にせーよ!>

 

 

とうとう野崎がキレた。ビールジョッキをテーブルに叩きつけ、オレにクンロクをかましてきた。

 

 

個別指導でも、レアケースであるがブチギレる先生はおられる。気持ちは十分理解できるが、そうなれば先生の負けは確定だ。

 

 

大人のケンカは殴られた方が勝ち、て事は重々承知しておいて欲しい。決してこちらから手を出したらアカン。クンロクだけですら、録音されたらアウトやさかい。

 

 

 

ふと気が付くと、周りの客がこちらの方をチラ見してざわついている。しかしこんな事もあろうかと、新世界の居酒屋をチョイスしておいたのだ。

 

 

とにかくこういう輩の多い街でな、今のオレ達のこの状況はまだまだ可愛いもんやで。

 

 

なんせ西成区はヒューマンロンダリングには絶好の街やからな。あ、新世界は浪速区やったわ。

 

 

知らんけど。

 

 

すると、ヤンキーの店員がふてこい(ふてぶてしい)顔をしてテーブルにやってきた。

 

 

『お客さん、いらん事せんといてもらえますか?店出ていってもらいますよ?』

 

 

この、店員とは思えない態度の悪さ、さすがは新世界や。空気の読めなさも含めて。

 

あ、空気を読んでないのはオレ達か。しかし、またこんなとこで飯を食おうとは思われへんで、全く。

 

思わず、一体どれほどの観光客が新世界のリピーターになっているのか知りたくなった。

 

 

野崎の顔を見ると、まだまだ興奮している。今晩はどうやら怒り上戸のようだ。

 

仕方ない、落ち着かせるとするか。

 

 

「まあまあ落ち着け、野崎よ。」

 

<真面目に話しとるのにな、茶化したり煽ってきたり。エエ加減にせーよ!>

 

 

火に油を注ぐとはこの事か。

 

 

「いや、こっちも真面目に話しとるやんか。」

 

<どこがや!おかげであんなしょーもない店員にクンロクかまされたやないか!>

 

 

もうこうなると、どうしようもない。全て吐き出させて自然消滅するのを待つしかないか。

 

しかし、技官として伝えておかなければならない事もある。

 

 

「あのな、トラブルはまだ解決してないんやろ?この状態で胃潰瘍になってどないすんねん。潰瘍性大腸炎になってまうで?」

 

<・・・>

 

「安倍首相だって、生涯悩まされとるやないか。お前には、そんなやっかいな病気になって欲しくないからな。」

 

<・・・>

 

「ついイケズしてしもたんや。これから先の局面に備えて、免疫付けて欲しくてな。」

 

<・・・縁起でもない事言うな。>

 

 

野崎も大分落ち着きを取り戻してきた。

 

何事も物は言い様とはいうが、技官になって余計にその言葉の真理を理解する事が出来た気がする。

 

 

同じ内容でも、伝え方を少し変えるだけで被指導者の先生を良いようにも悪いようにも転がす事が出来るからだ。

 

まあプライベートでも常にそれが出来たら、誰も苦労はせんのやけど。

 

 

「で?例のオトコはいつから登場したんや?」

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