『そろそろラストオーダーのお時間ですが?』
さっきのヤンキー店員が無愛想に聞いてきた。一体、客商売を何やと思っとるんや?
<スドちゃん、今日はこの辺りでお開きにしよか。>
「え、ここで?これからが話の本番やないか。」
<今日はここまで遅くなるとは思ってなくてな、他の予定を入れてしもとるんや。>
「相談と言っときながら、ケツカッチンかいな。」
<スマンな、今日は絶対に外されへんのや。大事なスケアポがあってな。>
「スケアポ?なんそれ。」
<コレとの約束や。>
【私はコレで会社を辞めました。】みたいに己の小指を立てている。
そして、勝ち誇ったような顔でオレに自慢してきた。
お前は、バブルか。ダブル浅野か。
てか、前にもこんなことあったな。
「余裕無いって言ってた割には、随分ご機嫌な事しとるやないか。」
<余裕が無いからこそ、や。坂本龍馬も桂小五郎も、死と隣り合わせの人間は必ずスケと過ごしてたはずや。>
「エラいレジェンド引き合いに出してくれるやないか。」
<伊藤博文に至っては、いつ殺されるか分からんから、毎晩のように酒池肉林やったって言うやないか。>
「あぁ、日本初のアレしたレジェンドか。」
<まさしく【英雄色を好む】や。だから、俺もプレッシャーとは裏腹の行動をして己を奮い立たせなアカンのや。>
「ナポレオンぶるな。じっとしてたら、Vシネの事ばっか考えてまうからやろ?」
<わざわざこの瞬間に思い出させんなや。>
「まあエエわ、何やかんやで今日は盛り沢山やったからな。じゃあ日を改めさせてもらおか。」
<改めるって言っても、一週間後とかは無しやで?>
「お前の気持ちが冷めてしまうか?」
<お前の方がや。冷めた挙句、架空の予定入れてスルーされたらかなわん。という事で、明後日はどうや?>
「架空は請求だけで十分や。」
手帳でスケジュールを確認する。おあつらえ向きにフリーや。
「よっしゃ、明後日でかまへんで。仕事終わってからやから、6時くらいならイケるわ。」
<よっしゃ、俺もアポ切ってそれくらいの時間に行くわ!>
「わざわざアポ切らんでもエエがな。先に呑んでるから、フルで仕事してきてくれてかまへんで?」
<大切なゲストを待たせる訳には行かへん。大丈夫や、勤務医もおる。ちゃんと、院長がおらんでも回るシステム採用してるさかい。>
「アポロニアで特集されてそうなシステムやな。」
<あの雑誌は俺のバイブルや。【あの先生のライフスタイル】に載るのが夢なんや。>
「じゃあ次は、お前の【行きつけの店】に連れて行ってもらってよろしいか?掲載される資格があるか、見極めたるわ。」
<技官風情が、よーゆーた。とっておきの店、用意しといたるわ。>
野崎はそう言うと、スケアポを遂行するため颯爽と新世界を後にして行った。
全く•••飲み会キャンセルしてお仕置きされる世界もあるってのに、気楽なもんや。
縦社会で身を削るのって、何かと大変やねんで。
そんな野崎に対してオレはと言うと・・・まだ呑み足りない。
スタートが早かった分、まだ全然深い時間ではないからだ。
しかし、けっこう席が空いているにも関わらずきっちり時間で区切ってラストオーダー取らんでもエエやないか。まだまだ呑んでくれる客を、わざわざ逃がす必要は無いやろ。
てか野崎のスケアポを妄想すると、なんか羨ましくなってきた。明後日は、架空のアポでも入れてやろうか。
・・・しかし、アポを守るのは技官としての努めや。
そう一人で愚痴りながら、夜の街をパトロールする事とした。
