アカン、やっぱり赤玉ポートワインでは全く酔わへ
ん。酒を呑んでいる気がしなくて物足りなくなって
きた。しかし、さすがのオレもこの状況で生ビール
や日本酒を呑む訳にはいかない。
TPOを上手くこなすのが、大人のダンディズムや
からな。技官として、みっともない格好を見せる事
だけは避けなければならない。
説得力が無くなってしまうからな。
まあ程々に気分が良くなっているこの状況で、満足
しといてやるか。
「で、肝心の患者からのリアクションは、その後
どうなったんや?」
<それが問題や。そこからさらに二週間後、術後か
らは数えて24日後になっても痺れが取れへんくて
な。いや、痺れの度合いが強くなってきた、て言い
出してな。>
「約三週間か。確かにやっかいなケースやな、
ご愁傷様です。」
<やめろや、縁起でもない。まだこのケースは完結
してないんや。>
「分かっとる。現在進行形じゃなければ、わざわざ
オレにこんな話せんやろがい。」
<・・・まあな。ただな、話を聞いてもらってるこ
の瞬間だけは楽な気持ちになって、ちょっとばかり
心が軽く感じるてるんや。>
・・・分かるで。悩みは一人で抱えても何もエエ事
あれへん。信頼できる相手に打ち明けて、せめて気
持ちだけでも楽に、軽くしないと。
精神的にバランスを崩すと、普段通りのパフォーマ
ンスすら出来へんようになってしまう。そして、さ
らなる泥沼に嵌っていくんや。
ほんの一瞬の現実逃避でもエエんや。どうせイヤで
も現実と向き合わんとアカンのや。一瞬でも現実を
忘れられれば、より覚悟を決めて現実のトラブルと
堂々と向き合えるようになるんや。
と、野崎のメンタルヘルスについて真剣に思いを馳
せた。喫茶店の窓から見えるファッションヘルスの
看板を眺めながら。
相合橋周辺には、怪しいお店がいっぱいあるんや。
知らんけど。
「で、どんな対応したんや?」
<口腔外科に紹介するのが一番平和的な解決なんや
ろうけどな、臨床家としてのプライドが、それを許
さへんかったんや。>
「すぐに口外に送らへんかったん?」
<まずは、インプラントの研修会で学んだガイドラ
インに則ってから、それでダメだった時に送ろうと
したんや。>
「そんなんせんと、さっさと送ったら方が良かった
んちゃうか?それが患者のためになるし、お前にと
っても精神衛生上良かったんちゃうか?」
<そこで不信感抱かれて、あらぬ展開になったらど
ないすんねん!自院のトラブルは自院でカタ付ける
、これが一番患者のためになるんや。>
間違いではないと思うが・・・正解が分からんよう
になってきた。
信頼関係が築かれた患者ならそれでエエと思うが、
逆にさっさと専門医に送る方がエエとも思うし…
むしろ関係の浅い患者こそ、粘ったほうがエエのか
?いや、逆か?
まあこういう展開でこそ、これまでくぐってきた
修羅場での経験がモノをいうんやけどな。
しかし考えれば考えるほど、複雑になってくるで。
シンプル・イズ・ベストとはよく言ったもんや。
「Don’t think , just a feel.」
ブルース・リーも上手い事言ったもんやで。
まあ【患者】と一言で表現しても、千差万別やから
な。正解はないか。
イヤ、正解は結果の中にのみあるもんか。
ならば、その結果を教えてもらわなアカンな。
「で、結局どうなったんや?」
